酸化・還元の定義 - 酸化還元 - Chemist Eyes
  1. 酸化還元
  2. 酸化・還元の定義

酸化・還元の定義

はじめに」で紹介したように,酸化と還元は電子の授受によって定義できます。

電子を奪われる過程またはそれに伴う化学反応を酸化という。酸化の反対,すなわち電子を得る過程またはそれに伴う化学変化を還元という。

酸素でも水素でもない,電子の授受に基づくのが最も汎用性が高い酸化還元の定義です。少し特殊な例を紹介しましょう。以下に示すのはフッ素 $\ce{F2}$ と酸素 $\ce{O2}$が 反応して二フッ化二酸素(dioxygen difluoride)が生成する反応式です[1]

$$\ce{F2 + O2 -> O2F2}$$

この反応で酸化されるのは $\ce{F2}$ と $\ce{O2}$ のどちらでしょうか。酸素に基づく酸化還元の定義に従えば,フッ素に酸素が化合しているので $\ce{F2}$ が酸化されたとなりますが,そのように考えてよいでしょうか。化合物の名前にヒントがあり,二酸化二フッ素とはなっておらず,二フッ化二酸素という名前が与えられています。この名前は,酸素ではなくてフッ素の側に電子が渡されていることを示しており,この反応で $\ce{F2}$ は(酸素が化合するにもかかわらず)還元され,$\ce{O2}$ は電子を奪われ酸化されます。

別の例として水素化カルシウム(calcium hydride)の生成を考えましょう。

$$\ce{Ca + H2 -> CaH2}$$

水素が化合するのでこの反応でカルシウムは還元されているのでしょうか。いいえ,名前に水素化とあることから分かるように,カルシウムは水素に電子を奪われ酸化されています。このように,酸素や水素に基づく酸化還元の定義はときに電子の授受に基づく酸化還元と一致しないことがあります。したがって酸素や水素の動きを見るよりは,電子の授受に基づく方が,現象や反応を統一的に理解するという化学の大きな目標に一歩近づくことになります。

酸化数

さて,電子の授受で酸化還元を定義するということで決着しましたが,話はそう簡単ではありません。電子の動きがはっきりしない例があります。例えば 1 級アルコールを酸化するとアルデヒドが得られると高校の化学で習いました[2]。具体的にはエタノール $\ce{CH3CH2OH}$ を酸化してアセトアルデヒド $\ce{CH3CHO}$ となる反応などがこれに相当します。たしかに水素が減っているので酸化のような気はしますが,電子の授受で考えたとき,本当にエタノールは電子を失っているのか,化学式を見てもどの原子が電子をいくつ失っているのか,いまいちピンときません。そもそも共有結合からなる化合物の場合,電子を共有しているわけですから,電子を何個奪った,あるいは奪われたとはっきり述べること自体が困難です。

そこで電子の割り当てをはっきりさせるために生まれたのが酸化数(oxidation number)という考え方です。これは電子を各原子に割り当てるルールみたいなもので,共有結合のようにどっちつかずのような場合でも,とりあえずどちらかに帰属するよう,具体的には以下のようなルールに従って各原子の酸化数を決めます。なお正の酸化数を示すときは,常に $+$ の記号をつける約束になっています。

  1. 単体中の原子の酸化数は $0$(ゼロ)であり,各原子の酸化数の和は総電荷になる。
  2. イオン結合では,イオンの価数をその原子の酸化数とする。したがって,アルカリ金属元素の原子は酸化数は $+1$,2 族元素の原子は酸化数は $+2$ である。
  3. 共有結合では,電気陰性度が大きい方の原子の酸化数が一つ減り,小さい方の原子の酸化数が一つ増える。
  4. 化合物中の水素原子の酸化数は通常 $+1$ であるが,ヒドリド $\ce{H-}$ として金属元素の原子と結合する場合は $-1$ とする。
  5. 化合物中の酸素原子の酸化数は通常 $-2$ であるが,フッ素と結合している場合は $+1$,過酸化物 $\ce{O2^{2-}}$ の場合は $-1$,超酸化物 $\ce{O2^-}$ の場合は $-\frac{1}{2}$,オゾニド $\ce{O3^-}$ の場合は $-\frac{1}{3}$ とする。

イオン結合の化合物はシンプルで,例えば塩化カルシウム $\ce{CaCl2}$ であればカルシウムイオンの酸化数が $+2$,塩化物イオンの酸化数が $-1$ となります。硫酸イオン $\ce{SO4^{2-}}$ は総電荷が $-2$ なので,硫黄原子の酸化数は $+6$ です。過酸化水素 $\ce{H2O2}$ では,水素の酸化数は $+1$ で原則通り,酸素は過酸化物なので例外規定により,酸化数が $-1$ となります。共有結合の化合物では電気陰性度の大小で電子の帰属が決まります。例えばメタノール $\ce{CH3OH}$ であれば水素原子と酸素原子の酸化数はそれぞれ原則通り $+1$ と $-2$ に決まりますが,さらにトータルでゼロになるルールにより,炭素の酸化数が $-2$ と決まります。イオン結合ではないので,実際に炭素原子が $-2$ の電荷を持っているわけではない点に注意してください。

エタノールとアセトアルデヒドを酸化数の観点から比べてみましょう。エタノール $\ce{CH3CH2OH}$ の水素原子と酸素原子の酸化数の総和から,二つの炭素原子の酸化数が合わせて $-4$ になることが分かります。これをどう分配するかですが,$\ce{C-C}$ 結合は同じ元素どうしなので電子を引き合わないと考えると,メチル基 $\ce{CH3 -}$ の炭素原子の酸化数に $-3$ を与えるのが妥当であり,メチレン基 $\ce{- CH2 -}$ の炭素原子の酸化数は $-1$ となります。アセトアルデヒド $\ce{CH3CHO}$ では,同じ考えからメチル基の炭素原子の酸化数を $-3$ とするとアルデヒド基 $\ce{- CHO}$ の炭素原子の酸化数は $+1$ となり,エタノールでの $-1$ からアセトアルデヒドの $+1$ へと酸化数が増えていることがわかります。これよりエタノールからアセトアルデヒドを得る反応は酸化反応であると言えます。

酸化還元反応

酸化数という考え方を導入することで,電子の授受に基づく酸化・還元を明確に判断できるようになりました。何かが酸化されるということは,電子の奪い手が必要であって,奪い手の立場で見ると自分は電子を受け取る(奪う)のですから,還元されたことになります。逆も然りで,何かが還元されるということは,電子の贈り手が必要であって,贈り手は電子を失うのですから,酸化されたことになります。このように,電子の授受で酸化・還元を定義する以上,酸化反応と還元反応は常に同時に起こるものですので,これらをまとめて酸化還元反応(redox reaction)と呼んでいます。また,何かを酸化する物質は酸化剤(oxidant),何かを還元する物質は還元剤(reductant)といいます。酸化剤は相手を酸化することで自分は還元され,還元剤は相手を還元することで自分は酸化されます。

酸化還元反応と酸塩基反応

電子の授受が酸化還元反応,電子対の授受が酸塩基反応でした。段々と頭が混乱してくるかもしれません。いくつか例を見ながら整理しておきましょう。初めに,亜鉛が塩酸に溶けて水素が発生する反応を考えます。

$$\ce{Zn + 2HCl -> ZnCl2 + H2} \label{ZnHCl}$$

この反応は塩酸という酸が関わっているから酸塩基反応でしょうか。酸化数の変化を見てみましょう。反応式左辺の亜鉛,水素,塩素の各原子の酸化数はそれぞれ $0$,$+1$,$-1$ ですが,それが反応後には $+2$,$0$,$-1$ となります。したがって,反応(\ref{ZnHCl})は塩酸(正確には水素イオン)を酸化剤とし,亜鉛が酸化され,水素イオンが還元された酸化還元反応であることがわかります。一方,塩化亜鉛 $\ce{ZnCl2}$ は亜鉛イオン $\ce{Zn^{2+}}$ が塩化物イオン $\ce{Cl-}$ から電子対を受け取ることで生成するので,$\ce{ZnCl2}$ の生成は酸塩基反応であるという見方もできます。ただし $\ce{ZnCl2}$ は溶解度の高い塩ですから,通常の条件では溶液中に電離して溶けたままと考えるのが妥当です[3]。よって事実上この反応は酸塩基反応ではありません[4]。$\ce{ZnCl2}$ は酸化亜鉛 $\ce{ZnO}$ に塩酸を加えても生成します。

$$\ce{ZnO + 2HCl -> ZnCl2 + H2O} \label{ZnOHCl}$$

この場合,亜鉛,水素,塩素のいずれの原子も反応の前後で酸化数が変化していません。したがって反応(\ref{ZnOHCl})は酸化還元反応でも酸塩基反応でもありません。強いて言えば水の生成については酸塩基反応となります。銀が硝酸に溶解する反応ではどうでしょう。

$$\ce{Ag + 2HNO3 -> AgNO3 + H2O + NO2} \label{AgHNO3}$$

銀原子の酸化数が $0$ から $+1$ に増加し,(一つの)窒素原子の酸化数が $+5$ から $+4$ に減少しています。よって反応(\ref{AgHNO3})は酸化還元反応です。それでは,硝酸銀 $\ce{AgNO3}$ と塩酸との反応ではどうでしょうか。

$$\ce{AgNO3 + HCl -> AgCl + HNO3} \label{AgNO3HCl}$$

いずれの原子も反応の前後で酸化数の変化がありませんので,反応(\ref{AgNO3HCl})は酸化還元反応ではありません。一方,塩化銀 $\ce{AgCl}$ は難溶性塩ですのでこの反応では $\ce{AgCl}$ の沈殿が生成すると考えられます。この反応は銀イオン $\ce{Ag+}$ をルイス酸,$\ce{Cl-}$ をルイス塩基とする酸塩基反応です。

最終更新日 2022/10/18