元素周期表
周期表は単なる元素の一覧表ではなく,化学の基礎知識を身につけるうえで不可欠なツールで,多くの科学者たちの発見と探求の成果が集約されています。高校で化学を学んだ方は,主に $\ce{_20Ca}$(カルシウム)までの元素を原子番号順に覚えることが多いと思います。しかし,その先の元素が重要ではないという意味ではまったくありません。把握する範囲を拡げると,化学を学習するうえで便利ですので,例えば $\ce{Ca}$ まで把握したら,次のステップとして $\ce{_30Zn}$(亜鉛)までの元素というように,学習の段階に応じて覚える範囲も広げてみてはいかがでしょうか。
同じ族に属する元素は似た性質を持つため,周期表を活用する際には,横方向(原子番号順)に元素を追うだけでなく,縦方向に族で把握することも重要です。例えば,$\ce{Fe}$ - $\ce{Ru}$ - $\ce{Os}$ や $\ce{Co}$ - $\ce{Rh}$ - $\ce{Ir}$ といった同族元素を理解することで,周期表全体の構造がより具体的に見えてくるようになります。縦の関係を把握することは,化学反応の予測や物質の性質を理解するうえで役立ちます。
天然に存在する元素は,複数の同位体から構成されるものがたくさんあります。一般に原子量と言えば,個々の同位体の原子質量と,その同位体の天然存在比からなる平均によって定められるものですが,同位体の存在比というのは地域や年代によって変化する場合もあり,絶対的な値ではありません。表中にある「日本化学会原子量小委員会が作成した 4 桁の原子量」というのは,様々な事情を踏まえ,この値を使いましょうと約束した値ということになり,よほどの特殊な状況でない限り,この値を使って不都合は生じません。
周期表の元素は,その特徴に応じていくつかのグループに分けられます。その代表的なものを紹介します。
貴ガス元素:周期表の右端(18 族)に位置する貴ガス元素($\ce{He}$, $\ce{Ne}$, $\ce{Ar}$ など)は,非常に安定で単原子分子を形成します。化学反応を起こしにくい特徴を持ちますが,$\ce{Kr}$ や $\ce{Xe}$ など,化合物が知られている貴ガス元素もあります。
ハロゲン元素:17 族元素のフッ素($\ce{F}$),塩素($\ce{Cl}$),臭素($\ce{Br}$),ヨウ素($\ce{I}$)はハロゲン元素と呼ばれています。アスタチン($\ce{At}$)やテネシン($\ce{Ts}$)は 17 族元素ですが,その詳しい性質は十分には解明されておらず,相対論的効果によって性質が大きく異なるのではないかという見解もあるため,ハロゲン元素に含めるのが適切であるかどうかは決着していません。
アルカリ金属:周期表の左端,1 族に属するアルカリ金属元素($\ce{Li}$, $\ce{Na}$, $\ce{K}$など)の単体は,非常に反応性が高く,水と激しく反応して水素ガスを発生させ,強塩基の水溶液となります。
遷移金属:遷移金属元素は周期表の中央部分に位置し,多くの異なる酸化数を取ることができます。触媒として利用されることが多く,有名な例としては,鉄($\ce{Fe}$)のアンモニア合成,パラジウム($\ce{Pd}$)の水素化反応などがあります。
ランタノイドとアクチノイド:ランタノイド($\ce{La}$ から $\ce{Lu}$)とアクチノイド($\ce{Ac}$ から $\ce{Lr}$)は,$\ao{f}$ 電子が配置される元素で,本来は第 6 周期,第 7 周期に組み込まれる($\ce{Ba}$ や $\ce{Ra}$ から横に延びていく)のが自然な周期表ですが,そうすると巻物のように横長になってしまうので,スペースの関係で周期表の欄外に表示されることが多いです。
これらの例の他に,鉄族元素という表現については注意が必要です。鉄族元素は縦の列(族)を示すのではなく,横の並びを指しており,具体的には鉄($\ce{Fe}$),コバルト($\ce{Co}$),ニッケル($\ce{Ni}$)の 3 元素を指します。