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エントロピー

むかしむかし,それまで知られていなかった新しい状態量が発見され,エントロピーと名付けられました。

熱力学の学習で戸惑うのがエントロピー(entropy)だと思います。記号は $S$ を使います。発音がエンタルピーと似ているのも紛らわしいです。多くの熱力学の教科書では,Carnot サイクルというものを考えて,そこから議論を進めて,新たな状態量であるエントロピーを導入します。ここは速習編ですので,Carnot サイクルは省略して,どうやらエントロピーという状態量があるらしい,というところから話を始めます。エントロピー $S$ は状態量です。信じましょう。状態量ですから,系の状態が定まれば,具体的な値が何かはさておき,エントロピーという物理量が決まります。人類が気づいていなかっただけで,初めからそこにあったので,発明ではなく,発見です。戸惑いの原因は,体積,圧力,温度といった状態量と比べて,エントロピーは直感的なイメージが持ちにくいことです。しかし,イメージのしやすさというのは状態量に必要な条件ではありません。エントロピーが状態量であることを理詰めで説明してくれるのが Carnot サイクルを用いた議論です。

はじめに」で,熱と仕事は,構成する粒子の動きに秩序ある方向性があるかどうかで区別することができると書きました。プロパンを燃焼して発生した熱は,発生した $\ce{CO2}$ と $\ce{H2O}$ 分子の運動に由来しますが,この運動には秩序ある方向性がありません(上昇気流とかは脇に置いておく)。一方,私たちは熱を仕事に変えることができることも知っています。蒸気機関が代表例でしょうか。仕事は粒子の動きに秩序ある方向性が必要です(蒸気機関であれば水分子が秩序ある動きをしてシリンダーを動かす)。バラバラの運動から秩序ある運動を取り出すのはどう考えても分が悪く,熱エネルギーをまるまる全部仕事として取り出すことはできそうもありません。どのくらい無駄にしなくてはいけないか。バラバラ度合が大きいほど無駄も大きくなり,このバラバラ度合を表したのがエントロピー $S$ です。正確にはエントロピーと温度の両方が関係していて,無駄にしなくてはいけないエネルギーはエントロピーと温度の積 $TS$ になり,これを束縛エネルギーといいます[1]。つまり,少なくとも $TS$ に相当する分は仕事として取り出すことができません。

ギブズエネルギー

エンタルピー $H$ から束縛エネルギー $TS$ を引いたものは,$H$,$T$,$S$ がすべて状態量ですので,これも状態量になります。これを ギブズエネルギー(Gibbs energy)といい,記号は $G$ を使います[2]。ギブズの自由エネルギーともいいますが,最近は自由を入れないことが多いようです。

$$G \equiv H - TS$$

定義にエンタルピーが入ることからも想像できるようにギブズエネルギーは定圧条件と相性が良いです。ギブズエネルギーは等温等圧の準静的過程において,外界になすことができる仕事の最大値です。準静的過程というのは,熱力学で重要なキーワードなので,あえて使いましたが,ここではじわ~ぁとゆっくり変化させることだとしておきます。手元にあるエンタルピーから,束縛エネルギー分はどうしても捨てざるを得ず,その差が仕事として使うことができる分ということです。化学反応であれば,反応の前後で $G$,$H$,$S$ が変化するので,次式(\ref{DrGDrHTDrS})となります。$\mathrm{r}$ は反応(reaction)の r です。反応したら温度も変わるのでは?と思うかもしれません。変わるのであれば $\Delta(TS)$ としても良いです。しかし,前後同じ温度に換算して考えることが多いので,その場合は $T$ に $\Delta$ をつける必要はなくなります。

$$\DelG{r} = \DelH{r} - T\DelS{r} \label{DrGDrHTDrS}$$

体積一定の条件では,エンタルピー $H$ の代わりに内部エネルギー $U$ の出番であると前に書きました。これに対応してギブズエネルギーの $H\rightarrow U$ バージョンも当然あって,ヘルムホルツエネルギー(Helmholtz energy)と呼ばれていますが,速習編では深入りしません。