1. 酸化還元
  2. 不均化・均化

不均化・均化

化学反応の中には同一種類の物質が 2 分子(以上)反応して,元とは異なる複数種類の物質に変化するものがあり,これを不均化(disproportionation)または不均化反応と呼んでいます。また反対に二種類(以上)の物質が反応することで一種類の物質になってしまう反応もあり,これを均化(comproportionation)または均化反応と呼んでいます。不均化・均化には酸化還元反応が関わるものが多くありますので以下で実例を見ながらそのメカニズムを考察します。

不均化

$\ce{Cu+}$ イオンと $\ce{Cu^{2+}}$ イオンの標準電極電位を見ると,それぞれ $\Eo(\ce{Cu+},\ce{Cu}) = 0.521\unit{V}$ と $\Eo(\ce{Cu^{2+}},\ce{Cu+}) = 0.153\unit{V}$ となっており,いずれの値も水の安定領域に入っています。したがって,他に酸化還元に関わるような化学種が同時に存在しなければ,$\ce{Cu+}$ と $\ce{Cu^{2+}}$ のどちらのイオンも水中で安定に存在できるように思われますが,実際には $\ce{Cu+}$ イオンは次式に従って水中で不均化するため,安定に存在することができません。

$$\ce{2Cu+(aq) -> Cu^{2+}(aq) + Cu(s)} \label{cudisp} $$

この反応の標準電池電位を求めてみましょう。$\ce{Cu^+}$ イオンが正極と負極の両方に関わっているので,電池式は次のように書けます。リアルな電池をイメージするなら式(\ref{ptcudis}),酸化還元反応のみにフォーカスするなら式(\ref{cucucu})でしょうか。実際に電池を作るわけではないのでどちらで書いても良いです。

\begin{align} &(-)\ce{Pt|Cu^{2+},Cu+||Cu+|Cu}(+) \label{ptcudis} \\[10pt] &(-)\ce{Cu^{2+}|Cu+|Cu}(+) \label{cucucu} \end{align}

$\Eocell$ は正極側電位から負極側電位を引きますので $\Eocell = 0.521-0.153 = 0.368\unit{V}$ となり $\DGo{} < 0$ となって反応(\ref{cudisp})が自発的に進行することが分かります。反応(\ref{cudisp})の平衡定数を求めてみましょう

$$\Ecell = 0.368 - 0.0591\log K = 0$$

これより $K = 1.7\times 10^6$ が得られます。したがって $\ce{Cu+}$ イオンは水中では 2 価の $\ce{Cu^{2+}}$ イオンと単体の $\ce{Cu}$ に不均化するため $\ce{Cu+}$ イオンとしては熱力学的には安定に存在できないことが分かります。

均化

銀イオンと言えば 1 価の $\ce{Ag+}$ が一般的ですが,2 価イオン $\ce{Ag^{2+}}$ も存在します。ただし $\Eo(\ce{Ag^{2+}},\ce{Ag+}) = 1.980\unit{V}$ ですので,水があると水は酸化され $\ce{Ag^{2+}}$ は $\ce{Ag+}$ に還元されます。$\Eo(\ce{Ag+},\ce{Ag}) = 0.7996\unit{V}$ ですので $\ce{Ag+}$ イオンは水を酸化しません。では水がなければ $\ce{Ag^{2+}}$ は安定に存在できるかというと,有機溶媒中などの水が存在しない条件であったとしても,単体の銀が存在するのであれば,次式に従いこれらは $\ce{Ag+}$ に均化します。

$$\ce{Ag^{2+} + Ag(s) -> 2Ag+}$$

この反応の標準電池電位は $\Eocell = 1.18\unit{V}$,平衡定数は $K = 9.3\times 10^{19}$ と求まります。

最終更新日 2023/03/01