大気の影響
多くの実験や自然環境中の化学反応は大気の下で行いますので大気中の酸素の影響を考える必要があります。水に溶解した酸素は $\Eo = 1.23\unit{V}$ で四電子還元されて水になります。
鉄イオンを例に考えましょう。$\ce{Fe(III)}$ イオンから $\ce{Fe(II)}$ イオンへの電極電位は $\Eo(\ce{Fe^{3+},\ce{Fe^{2+}}}) = 0.771\unit{V}$ です。
前節からわかるように,この電極電位は天然水の存在領域に入っていますので $\ce{Fe(II)}$ イオンは水を還元しません。したがって鉄を酸に溶解すると $\ce{Fe(II)}$ イオンが生じてそのまま($\ce{Fe(III)}$ イオンにはならずに)安定に存在するはずです。しかし自然界での鉄の多くは赤鉄鉱(ヘマタイト $\ce{Fe2O3}$)など,3 価の形で存在しています。式(\ref{o2red})と式(\ref{fe3fe2})から電池反応を作ってみます。
この反応は電池電位が $\Eocell = 1.23 - 0.771 = 0.46\unit{V}$ となり自発的に進行することが分かります。
硫黄酸化物
原油中には硫黄が含まれるため,原油の燃焼とともに二酸化硫黄 $\ce{SO2}$ などの硫黄酸化物 $\ce{SOx}$ が生成し,これが酸性雨の原因になるとしてかつて大きな問題となりました。現在の日本では脱硫装置(下の写真)が装備されているので原油の燃焼に伴う $\ce{SOx}$ の放出は抑制されていると思いますが,$\ce{SOx}$ は火山ガスにも含まれますので $\ce{SOx}$ の環境への影響を考えることは大切です。
脱硫装置
硫酸イオン $\ce{SO4^{2-}}$ と酸素の電極電位はそれぞれ以下で表されます。
したがって大気に放出された二酸化硫黄は酸素で酸化されて硫酸となることが分かります。