熱化学 - 化学熱力学 - Chemist Eyes
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熱化学

熱化学と言っても特別なことはなく,これまでに見てきた標準蒸発エンタルピーのような物理変化に伴うエンタルピー変化,プロパンの燃焼のような化学変化に伴うエンタルピー変化などは熱化学が扱う題材の例です。生成熱に対応する,標準生成エンタルピー $\DHo{f}$ もあり,高校化学でおなじみの ヘスの法則(Hess' law)を使うこともできます。単体の $\DHo{f}$ は温度に関わらず,ゼロと定義されています[1]。例えば,$298\unit{K}$ における液体のベンゼン $\ce{C6H6(l)}$ の標準生成エンタルピーは次式で表されます[2]

$$\ce{6C(c,graphite) + 3H2(g) -> C6H6(l)} \qquad \DHo{f} = +49.1\kJmol$$

データベースには色々な物質の $\DHo{f}$ が報告されています。その中から,$\ce{CO2(g)}$ と $\ce{H2O(l)}$ の $\DHo{f}$ がそれぞれ $-393.5\kJmol$ と $-285.8\kJmol$ であることを使うと,$\ce{C6H6(l)}$ の標準燃焼エンタルピーは次のように計算で求めることができます。

\begin{align} &\ce{C6H6(l) + O2(g) -> 6CO2(g) + 3H2O(l)} \\[10pt] &\DHo{c} = 6\times(-393.5)+3\times(-285.8)-(+49.1) = -3267.5\kJmol \end{align}

標準生成ギブズエネルギー

標準生成エンタルピーのギブズエネルギー版が標準生成ギブズエネルギー $\DGo{f}$ で,次式で表されます。

$$\DGo{f} = \DHo{f} - T\DSo{f}$$

単体の場合,$\DHo{f}$ が定義によりゼロで,$\DSo{f}$ についても単体なので変化量はゼロ,ということで $\DGo{f}$ はゼロになります。

実は $\DGo{f}$ もデータベースで値が提供されていて,例えばベンゼン $\ce{C6H6(l)}$ では,$\DGo{f} = +124.5\kJmol$ ですが,他の熱力学パラメータを使って,自分で計算することもできます。必要な情報は上で書いた $\ce{C6H6(l)}$ の標準生成エンタルピーに加え,関係する三つの物質の標準エントロピー $\So$ です。$\Delta$ がつかない $\So$ で,変化量ではなくて,標準状態でその物質が持つエントロピーです。これは単体でもゼロではありません。$\So$ をどうやって得るかはちょっと大変で,ここでは省略しますが,実験的に求めることになり,そのデータがやはりデータベースに与えられています。$\ce{C6H6(l)}$,$\ce{C(c,graphite)}$,$\ce{H2(g)}$ の $\So$ がそれぞれ,$+173.4\JKmol$,$+5.7\JKmol$,$+130.7\JKmol$ となります。キロジュールではない点に注意してください。また,固体は液体や気体と比べてバラバラ具合が小さいことを反映して,グラファイトの $\So$ の値は他と比べて小さいことがわかりますね。これらを使って標準生成ギブズエネルギーを求めるのが次式となります[3]

$$\DGo{f} = (+49.1 - 6\times 0 - 3\times 0) - 298.15\times(0.1734 - 6\times 0.0057 - 3\times 0.1307) = +124.5\kJmol$$

めでたくデータベースと同じ値が得られました。$\DGo{f}$ を使うと,色々な化学反応の前後でのギブズエネルギー変化を求めることができます。

最終更新日 2022/08/03