1. 補足
  2. 数学の用語
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数学の用語

数学では日常生活でも使うことがある「連続」や「なめらか」のようなものを含め様々な用語を使いますが,日常用語よりもずっと厳密にその意味するところが定義されています。それを知らずになんとなく(日常的な)感覚でとらえていると,論理に欠陥が生じたり,議論がかみ合わなかったりする原因となりますので,本稿では数学で用いられる用語の定義を簡潔にまとめます。ただし,化学や物質科学での学習に用いることを前提とするので,抽象的な表現になりすぎないようにします。

集合

数学的に区別が明確な「ものの集まり」を集合といいます。集合を構成する「もの」をその集合の(または要素)といいます。集合を表すシンプルな方法は $\{a,b,c\}$ のように集合の元を $\{\ \}$ で囲うことです。元を書き並べるのではなく,$\{\ \}$ の中に条件式を書いて集合を定義することもできます。$a$ が集合 $A$ の元であることを $a\in A$ のように書きます。数の集まりはもちろん集合ですが,英語のアルファベットの集まり $A = \{a,b,c,\cdots,z\}$ も区別が明確なので集合です。「イケメン」というのは主観的で人により判断が分かれますので「イケメンの集合」というのは数学では集合として扱いません。

元が存在しない集合も集合と考え,空集合といい $\emptyset$ で表します。$\{\ \}=\emptyset$ です。集合自体が別の集合の元になることもできます(集合の集合)。空集合は集合なので集合の元になり得ます。そのため,空集合だけを含む集合は空集合ではありません($\{\ \}=\emptyset$ と $\{\emptyset\}\neq\emptyset$ の違いに注意してください)。 集合 $B$ の任意の元が集合 $A$ に属するとき,$B$ は $A$ の部分集合であり,$A$ は $B$ を含むといって,$B\subset A$(または $A\supset B$)と書きます。$A = \{a, b, c, d\}$ で,$B = \{b,c\}$ のような場合 $B\subset A$ です。$A\subset B$ かつ $B\subset A$ のとき $A=B$ です。

集合 $A$ と $B$ に対して,少なくともどちらかに属する元全体の集合を和集合といい,$A \cup B$ と書きます。これは「$A$ または $B$ に属する元」の集合という意味です(数学の「または」は両方に含まれる場合も含みます)。一方,$A$ と $B$ の両方に共通して含まれる元全体の集合を共通部分といい,$A \cap B$ と書きます。これは「$A$ かつ $B$ に属する元」の集合です。例えば,$A = \{1, 2, 3, 4\}$,$B = \{3, 4, 5, 6\}$ のとき,和集合 $A \cup B = \{1,2,3,4,5,6\}$,共通部分 $A \cap B = \{3,4\}$ となります。これに対して,$A$ に属するが $B$ には属さない元の集合($A$ から $B$ を引いたもの)は差集合とよばれ,$A \setminus B$ と書かれます。今の例で言えば,$A \setminus B = \{1,2\}$ です。

元どうしの順序関係が定義されている集合を順序集合と言います。順序には $\leq$ のような「大小を比べられる関係」や $\subset$ のような「集合の部分集合であることを比べる包含関係」などがあります。すべての元についての順序が一意に定まる順序集合を全順序集合といいます。順序集合を扱うときは,厳密には順序をどう定義した順序集合なのかを明示しなくてはいけませんが,紛れがない場合は省略されます。集合 $A = \{1,2,3,4\}$,$B = \{1,2\}$,$C = \{1,3\}$ を元とする集合の集合 $\{A,B,C\}$ に包含関係 $\subset$ により定義された順序を与えようとすると,$B\subset A$,$C\subset A$ ですが $B$ と $C$ には包含関係はありませんので,すべての順序は定まりません。このような全順序が定まらない順序関係を半順序といいます。

自然数全体の集合 $\{0,1,2,3\cdots\}$ は $\mathbb{N}$ で表します。$0$ を自然数に含めるかどうかについては両方の流儀があるようです。整数は自然数を負に拡張したもので,整数全体の集合は $\mathbb{Z}$,有理数全体の集合は $\mathbb{Q}$ で表します。有理数は整数の比で表せるというのが定義です。数直線上のすべての点を実数といい,実数全体の集合を $\mathbb{R}$ で表します。$\mathbb{R}$ は $\leq$ で順序が定義された全順序集合です(だから数直線の左右で大小関係が比較できる)。有理数ではない実数を無理数といいます。無理数には特定の記号が当てられておらず,実数全体の集合と有理数全体の集合の差集合という意味で,無理数全体の集合は $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ と書きます。虚数単位 $i$ は $i^2 = -1$ を満たす数として定義され,$i$ に実数をかけた数($2i$ など)を虚数といいます。虚数は実数には含まれません。$3-5i$ のように実数と虚数の和で構成される数が複素数で,複素数全体の集合は $\mathbb{C}$ で表します。虚数は複素数に含まれます。自然数も整数も有理数も無理数もすべて実数ですし,実数は複素数に含まれます。よって次の部分集合の関係(包含関係)が成り立ちます。

$$\mathbb{C} \supset \mathbb{R} \supset \mathbb{Q} \supset \mathbb{Z} \supset \mathbb{N}$$

関数

関数とは,ある集合の元を入力として,対応する値(出力)を定める規則のことです。入力となる集合を定義域,出力の値が属する集合を値域と呼びます。例えば「実数 $x$ を入力として $x^2$ を出力する」という関数は,$x \mapsto x^2$ あるいは $f(x) = x^2$ のように書きます。これは $f$ という関数が入力 $x$ に対して $x^2$ を対応させることを意味します。

もう少し厳密な関数の定義は,「集合 $X$ の各元に対して集合 $Y$ のただ一つの元を対応させる規則 $f$」です。このとき,$f$ は $X$ から $Y$ への関数であり,$f : X \to Y$ のように書きます。

写像

写像とは,集合 $X$ の各元に対して集合 $Y$ の元を対応させる対応関係(対応規則)のことです。関数も写像の一種ですが,写像という語はより広い文脈で使われます。関数という言葉は主に「数を入力して数を出力するもの」を連想させますが,写像は(数に限らず)「集合 $X$ の元を集合 $Y$ の元に対応づける規則」という,より一般的な対応関係を強調する表現です。日本語で写像と言われるよりも,英語で mapping と言われた方がイメージがわきやすいかもしれません。

写像 $f : X \to Y$ において,$x \in X$ に対応する $y = f(x) \in Y$ を $x$ のといい,$x$ を $y$ の原像と呼ぶこともあります。集合 $X$ 全体を写像 $f$ によって移した結果得られる $Y$ の部分集合を $f(X)$ と書き,と呼びます。写像には次のような区別があります。

  • 単射
    異なる元が異なる像に写る。$x_1\neq x_2$ なら $f(x_1)\neq f(x_2)$ である。
  • 全射
    すべての $y \in Y$ に対して,ある $x \in X$ が存在して $f(x) = y$ である。
  • 全単射
    単射かつ全射であり,一対一対応が成立している。

全単射な写像が存在するとき,$X$ と $Y$ は(見た目は違っても本質としては)「同じ構造を持つ」と考えられます。特に,$f : X \to Y$ が全単射であれば,逆に $Y$ の各元 $y$ に対して,それを $f(x) = y$ とするただ一つの $x$ が存在します。このようにして,$f : X \to Y$ が全単射であるとき,対応関係を逆向きにたどることで逆写像 $f^{-1} : Y \to X$ を定義できます。$f^{-1}(y) = x$ は「$f(x) = y$ を満たす唯一の $x$」を返します。

単射であって全射ではないというのは,$x_1\neq x_2$ のように元が異なるなら,その像も異なるが,すべての $x\in X$ の像を集めても,$Y$ にはならない(感覚的には $Y$ の方が大きい)ということです。また,全射であって単射ではないというのは,すべての $x\in X$ の像をとると,$Y$ の全体が埋め尽くされるが,$x_1\neq x_2$ のように元が異なる場合でも,行きつく先の $Y$ の元が同じになる場合(感覚的には $X$ の方が大きい)をいいます。

最終更新日 2025/07/15