ネルンストの式
ここまで扱ってきた電極電位・電池電位は標準状態を前提としていました。本節では標準状態にない,すなわち関わる化学種の活量が $1$ ではないときの電位を考えます。標準状態ではない条件での酸化還元反応に伴うギブズエネルギー変化は以下で表されます。
ここで,$Q$(quotient)は,活量 $a$ を用いて式(\ref{quotient})で定義されます。$Q$ は平衡定数に似た形ですが平衡定数 $K$ ではなく単なる商(quotient)で,反応商とも呼ばれ,平衡状態のとき $Q=K$ となります。標準状態では $\ln Q = 0$ ですので $\DelG{r} = \DGo{r}$ です。
$\DelG{r}$ を $-\nue F$ で割ると電池電位 $\Ecell$ が得られるので,式(\ref{DGDGRTlnQ})を変形すると次式が得られます。
式(\ref{nernst})は ネルンストの式(Nernst equation)と呼ばれるもので,標準状態ではない状態における電極電位を与える式です。$\Ecell >0$($\DelG{r} < 0$)のとき,反応は右向きに自発的に進行します。平衡状態(反応がどちら向きにも進まない)では $\Ecell = 0$ かつ $Q=K $(平衡定数)ですので以下の式に従って平衡定数 $K$ を求めることができます。
半反応の電極電位は以下で表されます。
酸化還元に伴うエントロピー変化
標準状態に温度の規定はありません。標準電池電位の温度依存性を利用して酸化還元反応に伴うエントロピー変化 $\DSo{r}$ を求めることができます。
$\DHo{r}$ と $\DSo{r}$ が考えている範囲で温度に依存しない一定値であると近似すると,以下の式より $\DSo{r}$ が得られます。
一般に酸化還元半反応の結果電荷が減少すると,溶媒の配向に対する自由度が増加するためエントロピーは増加し,反対に電荷が増えるとエントロピーは減少します。
電池電位と平衡定数の関係
$25 \oC$,$\nue = 1$ を仮定すると,電池電位 $\Ecell$ における $-2$ から $+2 \unit{V}$ の幅は式(\ref{KEcellRT})より平衡定数 $K$ に換算すると $10^{-34}$ ~ $10^{34}$ に相当します。電位差 $4\unit{V}$ と聞くと大した大きな数値ではないような気がしますが,酸化還元反応における $4\unit{V}$ は平衡定数にして $68$ 桁の違いがある大変大きな違いであることがわかります。