方解石

ほうかいせき

calcite

炭酸カルシウム $\ce{CaCO3}$ を主成分とする鉱石には,結晶系の違いによっていくつか種類がありますが,方解石(calcite)はそのうち三方晶系の結晶系を有するものです。炭酸カルシウムの結晶としては最も安定で,天然にも広く見られます。石灰石(limestone)や大理石(marble)も,基本的には方解石の集合体となっています。方解石は英語をカタカナ読みしてカルサイトと呼ぶこともあり,こちらの方がカルシウムを含む鉱物であることがイメージしやすいかもしれません。

また同じ方解石であっても,見た目は様々なものがあり,下の写真は犬歯(dogtooth)のような形をしたタイプですが,他にも板状,針状,プリズム状などの結晶があります。

方解石

方解石

色は基本は白色もしくは無色透明ですが,含まれる不純物によって黄色やピンクなどに着色している鉱物もあります。このようなもののなかには,暗闇で紫外線(ブラックライト)を照射することにより発光するものがあり,以下は発光する方解石の例を示したものです。光る鉱石と言えば蛍石 $\ce{CaF2}$ がよく知られていますが,蛍石は加熱により光るのが特徴です(紫外線で光るものもあります)。

ブラックライトで発光する方解石

ブラックライトで発光する方解石

方解石は成分が炭酸カルシウムですので,酸によく溶けます。特段珍しい鉱石ではないので,方解石よりも,その中に埋まっている(方解石ではない)鉱石の方が欲しいということが起こりますが,その場合は酸で穏やかに処理してあげれば,中の鉱石を痛めることなく,方解石を取り除くことができます。

方解石は珍しい鉱石ではないと書きましたが,透明度が高くサイズが大きいものは貴重で,ものによっては宝石に比する価値があります。透明な塊状の方解石を氷州石(Iceland spar)と呼ぶことがあります。この名前の由来は,見た目が氷みたいだからというわけではなく,このような石がアイスランドでよく採れることに由来し,アイスランドの漢字表記が氷州であることからアイスランド石という意味で氷州石と呼ばれています。

方解石が示す面白い性質として複屈折(birefringence)があります。これは透明な氷州石でないと観察しにくいですが,入り込んだ光が二つの異なる方向に屈折することから,通過した光によって映し出される像が二重になる現象です。言葉で書くと難しく見えますが,以下の写真のように方解石を通すことで,下の文字が二重に見えるという現象を見たことがある方も多いのではないでしょうか。これが複屈折による効果で,複屈折は方解石にて初めて観察された現象です。

方解石による複屈折

方解石による複屈折

方解石の複屈折を利用した応用としてニコルプリズムがあります。これはいわゆる偏光子の一種で,特定の方向の直線偏光だけを取り出すことができるため,自然光から偏光を作ることの他,直線偏光の向きや強度を測定する目的でも用いられます。

最終更新日 2023/05/23

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