大理石

だいりせき

marble

建材や装飾品として人気が高い大理石は,石灰岩(limestone)が地中で高温・高圧で変性して生成した変成岩の一種です。石灰岩の主成分は炭酸カルシウム $\ce{CaCO3}$ ですが,変性の結果,大理石には方解石の粒が多く含まれます。ただし,一般には炭酸カルシウムだけではなく,炭酸マグネシウムを含むドロマイトが変性した岩石も広く大理石と呼びますので,「大理石 = 炭酸カルシウム」という認識は正確ではありません。また,建材としては,化学組成や変性の有無に関して,岩石の分類としての大理石よりは広い意味で大理石と呼ぶことがあるため注意が必要です。高温で変性すると二酸化炭素が遊離して生石灰 $\ce{CaO}$ になってしまうのではと思うかもしれませんが,地中での反応であり,高圧条件ですので二酸化炭素が抜けてしまうことはなく,変性を受けても化学組成としては炭酸カルシウムから変わりません。

大理石建築で最も有名なものと言えば,インドのタージ・マハルではないでしょうか。ムガール帝国の皇帝が亡き妃の墓廟として建築したものです。下の写真に米粒(より小さく)人が写りこんでいるのを見ても,そのスケールの大きさが伝わるかと思いますが,白く見えている建築部分はすべて大理石でできています。立派なお墓の常として,タージ・マハルも今ではすっかり観光地化しており,多くの人が訪れていて,インドの重要な観光資源となっています。一方,タージ・マハルの魅力の一つは白く美しい外観にあるわけですから,人が集まり,交通量が増えて排気ガスなどが充満すると,大気汚染によって建物の表面が汚れてしまい,世界遺産の価値(観光資源としての価値でもありますが)が毀損してしまいます。また,大理石ですので酸性雨は御法度で,窒素酸化物などの大気汚染物質には注意しなくてはいけません。そのため,タージ・マハルがある地域一帯は一般車での乗り入れが禁止されており,観光客は徒歩や専用の電気自動車で域内を移動しなくてはいけない仕組みになっています。それでもインドの経済発展に伴って,大気汚染は深刻化しており,タージ・マハルも汚れが目立つようになり,酸性雨の被害も含めて修復に多額の費用がかかっているようです。

タージ・マハルは,これがある故に,インド政府は大気汚染という環境問題を疎かにはできないという側面もあり,経済最優先に傾きすぎないインドの「たが」としての役割も担っているように思えます。そう見ると,タージ・マハルには亡き妃を弔うということの他に,インドが美しくあり続けてほしいという皇帝の願いも込められているのではないだろうかと思えてきます。

タージ・マハル

タージ・マハル

最終更新日 2023/02/12

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