Twitter Facebook LINE

酸・塩基

(acid)という言葉は小学生でも知っていて,小学校での酸やアルカリ(alkali)に関する学習事項は,水溶液には酸性,アルカリ性および中性のものがあるということ,これらの違いをリトマス紙や BTB 溶液を用いて調べることができるということ,そして酸やアルカリには金属を変化させる性質があるということです。小学生は塩酸や炭酸のような酸の具体例を知っていたとしても,どういうものを酸と呼ぶのか,酸を酸たらしめている原因については学習しません。これが中学校になると,酸と呼ばれるものが共通に持つ性質,アルカリが共通して持つ性質を学習し,酸と水素イオン $\ce{H+}$ ,およびアルカリと水酸化物イオン $\ce{OH-}$ がそれぞれ関係しているということを学びます[1]。また,酸やアルカリの強さとして $\pH$ という指標を用いること,酸とアルカリが中和することも中学校で学びます。

高等学校の化学では,アルカリを塩基(base)と呼ぶようになり[2],中学での学習事項をもとに,中和滴定のような,量的関係(価数や物質量を考慮した酸と塩基の関係)をより重視した理解を目指します。$\pH$ についても,水素イオン濃度 $\ce{[H+]}$ との関係をより定量的に学ぶことになります。また,酸でも電離度の違いによって強酸弱酸といった区別があること,弱酸の電離平衡,水のイオン積,なども高校化学の学習事項です。特に,中学理科から高校化学への過程で求められる発想の転換は,アルカリ(塩基)は $\ce{OH-}$ を放出するものだと教わっていたものが,$\ce{OH-}$ は気にしなくていいから,$\ce{H+}$ を受け取るものを塩基と呼びなさい,と教わる部分ではないかと思います。中学校で習ったアルカリの説明は間違いだったの?と思った方もいたのではないでしょうか。

中学校で教わったアルカリの定義は間違いだったのでしょうか。実はそうではなくて,歴史的に酸や塩基の定義は変化していて,学校教育もその歴史的流れを汲んでいることが要因です。定義が変化すると言っても,より広い範囲を含むような変化ですので,新定義は旧定義を含んでおり,旧定義で塩基だったものが新定義では塩基でなくなるということはありません。むしろ,旧定義では酸とも塩基とも判定できないようなものに対しても,新定義では判断できるようになるということです。この講義では,水素イオン $\ce{H+}$ の授受で定義された酸・塩基についてより深く理解するとともに,さらに範囲を広げて定義された酸・塩基について学習します。

ところで,酸・塩基の理解を深めることのメリットは何でしょうか。もちろん,$\pH$ の計算ができるようになるといった実用的な側面もありますが,より本質的には,多くの化学的な事象を統一的に理解し,扱うことができるようになるということです。上で小中高の学習を振り返ったのは,酸・塩基の概念が広がることで,化学的な世界観(物質観)そのものが,学習が進むにつれて広がるからです。つまり,これまで関係がないと思っていたような化学的な事象が,同じ酸・塩基の概念で統一的に理解できるようになります。特に,高校化学での酸・塩基は,定義上プロトンが関わらない反応には適用できませんが,これから学ぶ新定義では,有機溶媒中で起こる化学反応や,金属の錯形成反応など,プロトンが関わらない場合であっても酸・塩基の概念でとらえることができるようになります。

  • [1]水素イオン $\ce{H+}$ は水素原子から電子が一つなくなったものですので,原子核しか残っていません。質量数 1 の水素原子の原子核は陽子(proton)1 個のことですので,水素イオンのことをプロトンと言います。別に水素イオンと言っても間違いではないのですが,業界用語みたいなもので,化学者はプロトンと言います。
  • [2]アルカリ(alkali,アラビア語の定冠詞 al- と灰を意味する kali)は水に可溶性の塩基のことを言います。したがって,水溶液を扱っている限りはアルカリと塩基は同じことです。

注)本講義では常用対数を $\log x$,自然対数を $\ln x$ のように表します。対数の表記法について詳しくはこちらを確認してください。

酸と塩基の定義

ブレンステッド酸・塩基

ルイス酸・塩基

非水溶媒系

水溶液の $\pH$

$\pH$ が適用できない系