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プロパンの燃焼

プロパン(propane)はガスコンロなどの燃料として用いられています。プロパンを完全燃焼すると,次式に従って二酸化炭素と水が生じますが,この反応は発熱反応です。

$$\ce{C3H8(g) + 5O2(g) -> 3CO2(g) + 4H2O(l)}$$

どのくらい発熱するかというと,$1\unit{mol}$ のプロパンの完全燃焼によって,$+2220\unit{kJ}$ の熱量が発生します。これをプロパンの燃焼熱は $+2220\kJmol$ であるといいます。熱量の単位 $\mathrm{cal}$ を使ってもよいのですが,「はじめに」で述べたように,熱の仕事当量の関係によって,熱量はエネルギーの単位で表すことができますので,単位はジュールで統一して話を進めることにします。着目してほしいのは,燃焼熱の符号です。燃焼するプロパンに手をかざせば熱いので,正符号は熱が出てきたことを意味します。

エンタルピー

熱力学では燃焼熱よりも,エンタルピー(enthalpy)という言葉を好んで用います[1]。プロパンの燃焼エンタルピーは $-2220\kJmol$ です。化学反応は燃焼に限らず,また熱の出入りを伴うのは化学反応だけではなく,溶解や相転移など色々ありますので,燃焼熱よりも,熱の出入り全般を表すことができるエンタルピーの方が一般性が高い用語です。記号は $H$ を使います。もう少し正確に言うと,この場合のエンタルピーとはエンタルピー変化のことを言っているので,変化を表す記号のデルタ $\Delta$ を用いて,$\DelH{}$ と表します。もう一度,符号に着目してください。今度はマイナスがついていて,燃焼熱と符号が反転しています。つまり,$1\unit{mol}$ のプロパンが完全燃焼することによって,エンタルピーが燃焼前と比べて $2220\unit{kJ}$ だけ減ったということを言っているのです。$\DelH{} = -2220\kJmol$ と書きます。発熱反応なのにマイナス符号というのが,エンタルピーで混乱しやすいポイントです。視点を変えてみてください。燃焼熱では,視点は「あなた」で,あなたが熱く感じたから正符号。エンタルピーでは,プロパン視点(正確にはプロパンと酸素からなる全体ですが)で考えます。プロパンは熱を外に出したので,プロパンはエネルギーを失ったことになります。エネルギーを失ったからマイナス符号。物質になったつもりで考えるとエンタルピーの符号が自然なものに見えてきます。吸熱反応であれば,もちろんエンタルピー変化は正になります。

プロパンの燃焼によって,プロパンと酸素からなる全体はエネルギーを失うわけですが,そのエネルギーはどこから来たものでしょうか。基本的には,プロパンと酸素を形成している化学結合のエネルギーが由来と考えることができます。つまり,$\ce{C-C}$ 結合や $\ce{C-H}$ 結合などが二酸化炭素の $\ce{C=O}$ 結合や水の $\ce{O-H}$ 結合に組み替えられる際の結合エネルギーの差が発生する熱の源です。ここで「結合エネルギーの差が燃焼エンタルピーです」と断言せずに,「基本的には」とか「熱の源」とぼかして書いたのには理由があります。これについては次節で考えます。

系と状態量

熱力学では,着目している部分を(system)といいます。上で「プロパンと酸素からなる全体」と表現したのが,プロパンの燃焼を考える際の系です。系以外の部分は外界(surroundings)といいます。「俺か,俺以外か」というカリスマホストの名言がありますが,熱力学の世界では「系か,系以外か」です。

プロパンの燃焼エンタルピーは,実際にはエンタルピー変化のことを言っていると述べました。つまり,燃焼前の系(始状態)のエンタルピーと燃焼後の系(終状態)のエンタルピーがあって,その差が $\DelH{}$ です。これは言い換えると,系の状態が定まっているならば,系のエンタルピーという物理量(これが具体的にいくつなのかはさておき)も定まっていることを意味します[2]。そのため,どのような燃焼のさせ方をしようと,始状態と終状態が同じであれば,系のエンタルピー変化は $\DelH{} = -2220\kJmol$ です。このように,系の状態が定まると値が定まる物理量を状態量(state quantity)といいます。状態量ではない,つまり始状態から終状態へどのように行きつくかの経路によって値が変わる物理量も当然あります。しかし,熱力学では始状態と終状態を見て,その違いを説明する学問です。したがって,経路によらない状態量が熱力学の主役になります。

最終更新日 2022/07/18