錯体の命名法
表記法と同様,錯体の命名法についても,実際の場面では用途に応じて柔軟に対応するというのが実情ですので,あまり神経質に考える必要はありません。
命名法のルール
典型的な錯体であれば,以下のルールで命名することができます。
- 最初に配位子,最後に金属を記します。単純な配位子の場合,個数は di-,tri-,tetra-,penta-,hexa- でカウントします。金属の酸化数はローマ数字で示します(Stock 方式)。対イオンがある場合,錯イオンが陽イオンの場合であっても錯イオンを先に述べます。
$\ce{[Cu(NH3)4]Cl2}$:テトラアンミン銅(II)塩化物,tetraamminecopper(II) chloride
$\ce{[Ni(OH2)6]^{2+}}$:ヘキサアクアニッケル(II),hexaaquanickel(II) など。 - 陰イオン性配位子で語尾が -ide であるものは,語尾を -ido に変えます。chloride,sulfide,disulfide($2-$),triiodide($1-$)など,単原子や同一多原子が該当しますが,$\ce{CN-}$や$\ce{OH-}$も含まれます。配位子を述べる順序は正式には日本語と英語で異なり,英語では,(元素記号のではなく)数詞を含まない読み方のアルファベット順に述べます。一方,日本語表記では中心金属に近い順(表記の順番通り)に述べることになっています。
$\ce{[CoCl(NH3)5]Cl2}$:クロリドペンタアンミンコバルト(III)塩化物,pentaamminechloridocobalt(III) chlorideなど。 - 陰イオン性錯イオンは語尾が -ate になります(cobaltate,chromate など)。一部ラテン語に基づく変則的なものがあります。Fe : ferrate,Cu : cuprate,Ag : argentate,Au : aurate,Sn : stannate,Pb : plumbate
日本語では語尾に「酸」が付きます。錯イオン全体の電荷を表したいときはアラビア数字で示します(Ewens-Bassett 方式)。
$\ce{[Co(CO)4]-}$:テトラカルボニルコバルト($1-$)酸,tetracarbonylcobaltate($1-$)
$\ce{K4[Fe(CN)6]}$:ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム,pottassium hexacyanidoferrate(II)
$\ce{Na2[CuCl4]}$:テトラクロリド銅(II)酸ナトリウム,sodium tetrachloridocuprate(II) など。 - 陰イオンが -ate で表される,-ic acid で表されるオキソ酸由来の配位子(nitrate,phosphate など),有機酸のアニオン,エステル(acetate,methyl acetate,thiocyanate など)が配位子となるときは,語尾が -ato になります。nitrato,acetato,thiocyanato など。
- 複雑な配位子は bis-,tris-,tetrakis- を用いてカウントし,その要素を丸括弧で囲みます。
$\ce{[Co(en)3]Cl3}$:トリス(エチレンジアミン)コバルト(III)塩化物,tris(ethylenediamine)cobalt(III) chloride など。