元素

げんそ

element

化学を学習して最も初期の段階で出会う用語の一つが元素です。多くの高校化学の教科書には,表紙をめくると元素の周期表が載っていますので,そこで既に元素という言葉が登場します。しかし,このような基礎的な用語であるからこそ,紛れのない定義を与えて,正しく用いるのが意外と難しく,特に元素と原子,単体の違いは曖昧になりがちです。

元素という言葉は化学に限定して用いられているわけではなく,例えば仏教では四大とよばれる「地・水・火・風」を万物を構成する元素と考えるそうですし,古代ギリシア哲学で元素といえば「土・水・空気・火」のことです。よって,特に現代の化学における元素のことですよ,というのを明確にするために化学元素(chemical elements)という言い方もできますが,通常,仏教と化学の話題が混在することもないわけで,わざわざ化学元素と呼ぶことはあまりありません。

元素の定義

元素とは何か。高等学校の教科書で元素について各社がどのように説明しているかを,いくつか引用して確認してみます。

  • 物質を構成している基本的な成分を元素という。(東京書籍 313 改訂化学基礎)
  • 単体や化合物を構成する基本的な成分を元素という。(実教出版 317 化学基礎改訂版)
  • 単体や化合物を構成する基本的な成分を元素という。(第一学習社 311 高等学校化学基礎)
  • (前略)この物質を構成している原子の種類を元素という。(数研出版 310 新編化学基礎)
  • 物質を構成する原子の種類を元素という。(啓林館 306 化学基礎)

実教出版と第一学習社では同じ表現が採用されていました。これを見ると,大きく「基本的な成分」を元素としている説明と「原子の種類」を元素としている説明に分かれるようです。

例として水を考えてみましょう。コップに入った水をどんどん細分化して,最後に一つの水分子 $\ce{H2O}$ になったとします。一つの分子 $\ce{H2O}$ を構成する成分は $\ce{H}$ と $\ce{O}$ ですが,このように,大きなところからどんどん分割すると,行きつく先は一粒の原子ではないのかという疑問が生じ,そうすると「基本的な成分」を元素とする説明では元素と原子の境界が曖昧になってしまいます。成分という言葉に個々の原子ではなく,集合体であるという意味が自然に含まれていればよいのですが,上の例のように物質を細分化して分子にしてしまうと,必ずしもそのような認識にはならないと思われます。一方,元素を「原子の種類」とすれば,一つの水分子は全部で三つの原子からなるが,こっちの二つは水素という種類の原子,残りの一つは酸素という種類の原子です,と説明できて,元素と原子の意味上の役割を分けることができるように思われます。

化学辞典(東京化学同人)には「同一の原子番号を有する原子の種類を元素という」と明記されています。IUPAC の Gold Book にも A species of atoms. とあり,species(種)という位置づけがなされています。これらのことを踏まえると,物質を構成する粒が原子,粒の種類が元素,一種類の粒の集合体が単体ととらえるのが妥当であるように思われます。

周期表は具体的な粒ではなくて種類についてまとめたものですので「原子の周期表」ではなくて「元素の周期表」ですし,原子の種類を区別するために周期表に載っている記号は「原子記号」ではなくて「元素記号」となります。ただし「水分子 $\ce{H2O}$ は $\ce{H}$ と $\ce{O}$ からできている。」という表現における $\ce{H}$ と $\ce{O}$ は原子のことを表しているととることもできますので,原子記号という言い方も(主流ではありませんが)存在しています。

天然に存在する元素

天然に存在する(人間の活動によらない)元素のうち最も原子番号が大きいのは,原子番号 92 番のウラン $\ce{U}$(uranium)です。ただし,途中,原子番号 43 番のテクネチウム $\ce{Tc}$(technetium)と 61 番のプロメチウム $\ce{Pm}$(promethium)は安定同位体がなく,天然には存在しません。したがって地球上で天然に存在する元素は全部で 90 種類ということになります。天然に存在しない元素であっても,人工的に合成することができて,原子番号 93 番以降の元素は超ウラン元素,104 番以降の元素は超アクチノイド元素と呼ばれます。

参考

  1. 講義 > 資料 > 元素周期表

最終更新日 2023/03/12

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