質量数

しつりょうすう

mass number

何かを細かく分けて考えていくときに,どこまで細かく見るかというのは目的次第ということになります。化学で物質を考える際は,目に見える物体から,それを構成する物質,物質を構成する分子,分子を構成する原子...と分けていって,原子を構成するのは電子(electron)と原子核(atomic nucleus),原子核を構成するのは陽子(proton)と中性子(neutron)というところまで考えるのが一般的です。化学を目的として,さらにその先を考えることは初学者にとっては稀でしょう。

質量数というのは,このうち原子核を構成する陽子と中性子にかかわる数です。ある原子の原子核に含まれる陽子の個数はその原子の原子番号に一致しますが,陽子の個数が同じであっても中性子の個数が異なる原子があって,それらは互いに同位体(isotope)とよばれます。同位体どうしを原子番号で区別することはできないので,中性子が何個含まれているのかについての情報も必要になるのですが,通常,中性子の個数そのものではなく,陽子と中性子の数の合計で区別します。この陽子と中性子の数の合計を質量数(mass number)と呼んでいます。陽子と中性子をまとめて核子(nucleon)というので,質量数は核子の数といっても同じことです。原子番号(陽子の数)は元素記号から分かるので,元素記号と質量数を明示すれば,引き算によって中性子の数も分かります。

質量数と核子数

と,高校化学を勉強した方には今更感のある当たり前のことを書きましたが,改めて考えてみると質量数というのは不思議な言葉です。「数」は陽子と中性子を合わせた数なのでわかりますが,なぜ質量なのでしょうか。仮に陽子と中性子の質量が等しいのだとすれば,個数と質量には比例関係がありますのでまだ納得できますが,陽子と中性子の質量は(とても近いものの)異なります。また,これらの核子が原子核としてひとかたまりになる際の結合エネルギーとして,質量がエネルギーに変換されて使われますので,原子核の質量は核子単独の質量の和とは異なる質量欠損という現象がおこります。これらのことから,質量数が等しい二つの原子,例えば $\ce{^{14}C}$(陽子 6 と中性子 8)と $\ce{^{14}N}$(陽子 7 と中性子 7)は,どちらも質量数は $14$ で等しい同重核(isobar)ですが,その原子核の質量は異なります。

核子の数なんだから核子数じゃないの?と思って調べてみたら,どうやら核子数(nucleon number)という言葉も存在しているようです。今はメジャーではありませんが,核子数の方が紛れがなくて良いと思う人が増えて,声が大きくなれば,そのうち教科書に併記されるようになって,目が慣れたところで質量数には御退場いただいて核子数がスタンダードになる時代が来るかもしれません。

そうはいっても,質量数は整数値で表すもので,陽子と中性子の質量の違いや質量欠損は整数値に丸めると気にならなくなります。「そもそも質量数で話をするのは,細かい違いを問題にしていないときであるから,これまで通りでなにも不自由がない」というのが質量数という言葉が使われ続けている理由であろうと思われます。

そもそも何故「質量(mass)」という名前が与えられたのかは,仮説ですが,一つは小さな質量の違いを認識できないあるいは,違いがあるのは分かっていたが,それが大事であるというレベルまで科学が成熟していない時代につけられた名前が定着してしまったか,あるいは mass という英単語には質量の他に「塊,集団,集まり」という意味がある(マスコミのマスはこちらでしょう)ので,実は「集まった核子の数」という意味で mass number としていたにもかかわらず,日本語訳の際に mass を質量と訳してしまったということも,もしかしたらあるのかもしれません。

最終更新日 2022/08/02

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