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カ氏温度

かしおんど

degrees Fahrenheit

私たちが日本で室温や体温を測るときに使う温度はセ氏温度(摂氏温度)といいます。日本では基本的にセ氏温度しか使わないため,単に○○度と言えばセ氏温度のこと(絶対温度を使うときはケルビンなので「度」は使いません)ですが,ときどき「セ氏 25 度で」のようにセ氏を入れた表現も使われます。記号 $^\circ\mathrm{C}$ が使われていればセ氏温度であることを示しています。

セ氏温度(degrees Celsius)というのはもう少し正確に言うと,セ氏温度目盛(Celsius' temperature scale)によって表示した温度のことです。今,ある何かの温度を表現したいとして,その尺度としてセ氏温度目盛というものを約束し,それを使って表現した温度がセ氏温度ということになります。

セ氏温度目盛以外の温度目盛には,マイナーなものも含めればいくつかありますが,現在実際に使用されているものにカ氏温度目盛(Fahrenheit's temperature scale)があります。カ氏温度目盛を尺度として表現した温度がカ氏温度(華氏温度,degrees Fahrenheit)です。記号は $^\circ\mathrm{F}$ を使います。

「セ」とか「カ」というのは考案者名の頭文字ですが,ファーレンハイト(Fharenheit)ならフ氏じゃないの?と思うかもしれません。これは中国語由来のようで,Fharenheit が華倫海特(ただし簡体字では)と書かれることからカ氏なのだそうです。

カ氏温度目盛の定義

それでは,カ氏温度(あるいはカ氏温度目盛)とはどのようなものなのか。名称が中国語由来ということで,せっかくなので Wikipedia 中国語版から华氏温标の項目を引用します。

华氏温标的定義是:在标准大气压下,冰的熔点为 32$\unit{^\circ \mathit{F}}$,水的沸点为 212$\unit{^\circ \mathit{F}}$,中间等分 180 份,每等分为华氏 1 度。

標準大気圧において,氷の融点を $32\unit{^\circ F}$,水の沸点を $212\unit{^\circ F}$,その間を 180 分割して,間隔一つに相当する温度差がカ氏 $1$ 度分ということですね。

その昔,温度の尺度を決める際に,常に温度が一定で基準になるものというのはあまり候補がなく,氷水や沸騰水は手に入りやすく,再現性も良好なよい基準だったのでしょう。$32$ と $212$ という数字にした理由については諸説あるようですし,現在のカ氏温度目盛りはファーレンハイトのオリジナルを現代向けに修正したものなので,科学史的な興味を除けば由来を気にする必要はないでしょう。

カ氏温度の使用

現在,カ氏温度を日常的に使っている国はあまり多くはありませんが,アメリカで使われているので,存在感は小さくないです。日本人がカ氏温度に出くわすパターンは,アメリカに行って天気予報を見るときなどでしょうから,カ氏温度 $t_\mathrm{F}$ をセ氏温度 $t_\mathrm{C}$ に変換する式を示します。

\begin{equation} t_\mathrm{C} = \frac{5}{9}(t_\mathrm{F} - 32) \label{FtoC} \end{equation}

これより $80\unit{^\circ F} \approx 27\unit{\oC}$ および $100\unit{^\circ F} \approx 38\unit{\oC}$ ですので,暑い日本の夏の室温で $80\unit{^\circ F}$,最高気温で $100\unit{^\circ F}$ 程度というのが一つの目安になります。しかし,天気予報を見て上式を即座に暗算するのはやや面倒です。そこで,もう少し数字を丸めて計算しやすくします。

\begin{equation} t_\mathrm{C} \approx \frac{1}{2}(t_\mathrm{F} - 30) \label{appFtoC} \end{equation}

カ氏温度から $30$ を引いて半分に割ればセ氏温度の近似値が得られます。これなら天気予報を見ながら頭の中で換算することもできそうです。下図は式(\ref{FtoC})と式(\ref{appFtoC})をそれぞれグラフ化したものです。赤が正確な変換,青が近似です(黒は後述)。$50\unit{^\circ F}$($10\unit{\oC}$)で誤差ゼロで,そこから少しずつ誤差が広がりますが,$100\unit{^\circ F}$ でセ氏温度にして $3$ 度以下の誤差ですので,日常生活としては実用範囲内でしょう。

カ氏温度からセ氏温度への変換

カ氏温度からセ氏温度への変換

もう少しこだわりたい(あるいは割り算を楽にしたい)方は $t_\mathrm{F}$ をちょっと加工する以下の近似はどうでしょう。

\begin{equation} t_\mathrm{C} \approx \frac{1}{2}(t_\mathrm{F}' - 30) \label{appFtoC2} \end{equation}

ここで $t_\mathrm{F}'$ は $50\unit{^\circ F}$ より上なら $1$ または $2$ を足して偶数にした数字です。$50\unit{^\circ F}$ より下なら $1$ または $2$ を引いて偶数にした数字です。偶数になるので $2$ で割りやすくなります。これで計算した値が上のグラフの黒線になります。

以下はアメリカ版の Yahoo で調べた東京の天気予報です。カ氏温度とセ氏温度の表示が切り替えられるようになっていて,左がカ氏,右がセ氏での表示をスクリーンショットしたものです。

東京の天気予報(Yahoo.com)

東京の天気予報(Yahoo.com)

水曜日の最高気温は $89\unit{^\circ F}$ の予想。式(\ref{appFtoC2})を使うと $(90-30)/2 = 30\unit{\oC}$。正確には $31.7\unit{\oC}$ ですから,この違いを気にするような生活をしている人以外はこれで十分です。近似式(\ref{appFtoC})は低めに見積もりますので,元の数字を切り上げたことで誤差が小さくなります。最低気温は $2$ を足して $(76-30)/2=23\unit{\oC}$ となります。面倒と思った人は奇数のときだけ偶数に直すという方法でも良いかもしれません。$2$ または $3$ を足して偶数にするでも良いでしょう(この場合は $10\unit{\oC}$ 付近の誤差が大きくなります)。この辺は個人の好みです。

化学の世界でカ氏温度を使う機会は,実験室内での日常会話などを除けば本場アメリカにおいてもほとんどありません。したがってカ氏温度を現代化学の用語として取り上げること自体,若干違和感はあったのですが,セ氏温度の $1$ 度差がカ氏温度の $1.8$ 度差に相当する,すなわち温度の $1$ 度差というのは絶対的な基準がある物理量ではなくて,人間が勝手に決めた尺度であるということを再確認するには良い素材であると思います。というのも,セ氏温度と絶対温度は $1$ 度の温度差が等しくなるように定義されているため,ややもすると私たちは $1$ 度というのが何か特別な意味を持つ必然的なものと考えてしまいがちですが,決してそのようなことはなく,約束によって定まっている値に過ぎないものなのです。

最終更新日 2022/08/13