青銅

せいどう

bronze

銅 $\ce{Cu}$ とスズ $\ce{Sn}$ を主とする合金は青銅(bronze)であると化学の授業で習います。もちろんこれで間違いないのですが,銅とスズ以外の成分が含まれているものもあり,なんとアルミニウム青銅,ケイ素青銅,マンガン青銅といったスズを含まない青銅もあったりするので,$\ce{Cu}$ - $\ce{Sn}$ 青銅をわざわざスズ青銅(tin bronze)とよぶこともあります。銅の合金で黄銅や白銅など,他の特別な名前が与えられていないものは青銅にひっくるめてしまっているようで,ある意味,それだけ青銅が銅の合金として人類の歴史に深く根付いているということの表れなのでしょう。

人類史で青銅器時代というのがあり,石器時代と鉄器時代の間に挟まれた時代のことです。石器は硬くて武器や農具として優れていたでしょうが,いかんせん加工しにくく,思った通りのデザインを石器で実現するのは至難の業です。黒曜石をパーンと割って,とがっている部分を活かして矢じりに仕上げるとか,鋭い一辺が得られたら包丁にするとか,でたとこ勝負です。一方,鉄器は硬くかつ,好みのデザインに鋳造できるため理想的ですが,製錬や鋳造には高温が必要で,人類の歴史のなかで製鉄の技術が登場するには時間を要しました。青銅器は中間的存在で,鉄器ほど硬くないものの製錬,鋳造しやすく,加工しやすいのが特徴です。よって,初めに青銅器が歴史に現れ,それが鉄器へと置き換わっていくのは技術水準で考えれば当然のことです。

日本には青銅器と鉄器がほぼ同時に伝来したようで,武器や農具は硬くて丈夫な方が良いため,青銅製の実用的な道具の出土は少ないようです。しかし,祭事や神事に使うのであれば硬さよりも加工性が良くて装飾しやすい方が重宝します。よって日本では銅鐸に代表される祭器のような青銅器が数多く知られています。青銅鐸とは言わず,銅鐸。他にも銅剣,銅矛,銅鏡など。すべて青銅器製ですが,銅なんちゃらの名前で呼ばれています。どうも日本は青銅と銅を区別しないで同一視する傾向があるようです。もちろん,化学的には銅と青銅は別物です。

オリンピックのメダルといえば銅メダル,銀メダル,金メダルで,周期表の $11$ 族元素は上から $\ce{Cu}$,$\ce{Ag}$,$\ce{Au}$ なので「いい(11)メダルは銅銀金」と覚えられます。ところが,英語では gold medal と silver medal はよいのですが,銅メダルは copper medal ではなくて,bronze medal,つまり直訳すれば青銅メダルと呼んでいて,そうなると周期表 11 族を覚えるゴロとしてはいまいちな感じになってしまいます。これも,日本では青銅のことを銅と呼んでしまう傾向の一例です。

実際のオリンピックメダルの素材はといえば,銀メダルは銀,金メダルは金メッキした銀と決められているのだそうです。では,はたして銅メダルの素材は銅なのかブロンズなのか。規約によると青銅もしくは丹銅を使用すると決められているとのこと。ブロンズメダルが正解のようです。でも,ん,丹銅?いったい何でしょう。丹銅は銅と亜鉛の合金,すなわち黄銅(真鍮)の一種ですが,特に亜鉛の割合が少ないものを丹銅と呼んでいます。ですから,丹銅メダルであれば,もはやブロンズでもない。実は東京 2020 オリンピックではこの丹銅製のメダルが採用されたとのことで,銅 $95\unit{\%}$ 亜鉛 $5\unit{\%}$ のかなり銅に寄せてきた合金を使っています。もしかしたら「ブロンズメダルじゃないよ,銅メダルだよ」という秘かなメッセージが込められているのかもしれません。

青銅はブロンズ(bronze)。金髪をブロンズヘアという人がいますが,こちらは blond(e) で,正しくはブロンドヘアです。日本語はどちらも通用しそうですが,英語の r と l は大きな違いです。

参考

最終更新日 2023/02/02

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