インドの化学工場ガス漏れ事故

数日前に,インドの化学工場でガス漏れ事故があり,亡くなった方が多数出ているという報道を目にしました。

インド工場でガス漏れ、13人死亡 無人状態で化学反応か

https://www.bbc.com/japanese/52570561

今回流出したのはスチレンで,新型コロナウイルスの影響で街がロックダウンしていて,その影響で工場の安全管理が十分な体制ではなかったのではないかとのことです。これが事実であれば,これも新型コロナの関連死(2次災害)と言えるのかもしれません。

この事故については,まだ原因や被害の詳細が明らかではありませんが,インドの化学工場事故といって思い出すのが,1984年12月3日にインド中央部にあるボパールで発生した,ユニオンカーバイド社によるメチルイソシアナート(MIC,Me-N=C=O)流出事故です。

事故はユニオンカーバイド社の農薬工場で起こりました。MICは沸点が39℃の揮発性物質で,吸い込むと少量で肺を侵され,肺浮腫などで死に至る物質ですが,農薬の原料となるため,この工場では大量のMICがタンクに保管されていました。1984年12月3日の未明,タンクから揮発したMICが流れ出し,風に乗って近くの街を襲いました。これによって,短期的には2,000名以上,後遺症や関連した病死を含めると10,000人以上がこの事故で命を落としたと考えられている,極めて大規模な事故です。

直接の事故原因は,タンク内への水の混入です。MICは水と発熱反応し,その結果,二酸化炭素が発生します。つまり,タンク内に水が混入したことで,二酸化炭素の発生と発熱によってタンク内の圧力が上昇し,安全弁を破壊してMICが流出したものと考えられています。

実は,このタンクには絶対安全という,万一の際にMICを無害化させる安全装置が取り付けられていて,このような事故は理論上起こらないはずでした。しかし,現実として事故は起こり,多数の命が奪われてしまいました。この辺の状況は「身のまわりの毒」Anthony T. Tu著(東京化学同人)に詳しく記されています。

安全に絶対はないということを人類は既に経験していたのですが,インドで再び化学物質の流出で命が失われてしまったことは残念なことです。コロナのせいにせず,原因究明と徹底的な再発防止,そして忘れがちですが,安全倫理教育の充実が求められます。

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